ミトコンドリア病
概要・推奨
概要
- ミトコンドリア病は、細胞内のエネルギー産生を担うミトコンドリアの機能が、遺伝子の変異によって低下することで発症する疾患の総称です。ミトコンドリアは電子伝達系と酸化的リン酸化によってATPを合成しており、この過程が障害されると細胞の活動に必要なエネルギーが慢性的に不足します。
- 原因となる遺伝子変異は、ミトコンドリア内に存在するミトコンドリアDNA(mtDNA)、または細胞核内に存在する核DNA(nDNA)のいずれにも起こり得ます。ミトコンドリアの構造・機能・複製に関わるタンパク質をコードする核遺伝子は1,000種類以上に及ぶため、原因遺伝子は極めて多様です。
- ATPへの依存度が高い脳、心臓、骨格筋、感覚器(眼、耳)などが特に障害されやすく、これらの臓器に多彩な症状が生じます。単一臓器の障害として発症することも、複数臓器にわたる多系統症状として発症することもあり、臨床像は患者ごとに大きく異なります。
- mtDNA変異の場合、同一細胞内に正常mtDNAと変異mtDNAが混在するヘテロプラスミーの状態をとります。変異型の割合が組織ごとに異なり、かつある閾値を超えた組織でのみ機能障害が顕在化するため、同一家系内でも発症するかどうか、どの臓器に症状が出るかが大きく異なります。これがミトコンドリア病の臨床的多様性の主要因の一つです。
- 発症年齢は新生児期から老年期まで幅広く、小児期発症ほど重篤な経過をたどる傾向があります。多くの病型では症状が進行性であり、急性増悪(代謝クライシス)を繰り返しながら機能が低下していきます。
- 代表的な病型として、MELAS(ミトコンドリア脳筋症・乳酸アシドーシス・脳卒中様発作症候群)、MERRF(ミオクローヌスてんかんを伴う赤色ぼろ線維病)、Kearns-Sayre症候群(KSS)、Leigh脳症などが知られていますが、これらに当てはまらない非典型例も多く存在します。
- 症状が非特異的で多臓器にわたるため診断が遅れやすく、確定診断には生化学的検査・筋生検・遺伝子検査を組み合わせた系統的なアプローチが必要です。現在のところ根本的な治療法はなく、対症療法・支持療法と多職種による包括的管理が治療の中心となります。
推奨
- 原因不明の進行性脳症、筋力低下、難聴、視力障害、心筋症、糖尿病などが複数合併する場合には、ミトコンドリア病を鑑別疾患として考慮します。特に母系家族歴がある場合、小児期から繰り返す神経症状がある場合、易疲労性と多臓器症状が組み合わさる場合には積極的に疑います。
- 診断のためには、血中や髄液中の乳酸値・ピルビン酸値の測定、筋生検による病理組織学的評価、脳MRIなどの画像検査、および心電図や心エコーなどの生理機能検査を行います。乳酸値が正常であってもミトコンドリア病は否定できないため、臨床的に疑わしい場合は運動負荷試験も考慮します。
- 確定診断には、血液や筋組織を用いた遺伝子検査を実施します。近年は臨床的に疑わしい場合、最初から包括的遺伝子解析を行うことがあります。