正常圧水頭症
概要・推奨
概要
- 特発性正常圧水頭症(iNPH)は、くも膜下出血や髄膜炎などの先行する原因がなく、歩行障害、認知障害、尿失禁の三徴を呈する症候群であり、脳脊髄液(CSF)シャント術によって症状改善が期待できる疾患です。
- 脳脊髄液の吸収障害に起因する病態と考えられており、高齢者に多く高齢者に多く症状は緩徐に進行しますが、適切に診断されればシャント術によって日常生活機能の回復が見込める、治療可能な認知症原因の一つです。
- 画像所見として、脳室拡大に加えて、高位円蓋部・正中部のくも膜下腔は狭小化し、シルビウス裂や脳底槽は拡大するというDESH(disproportionately enlarged subarachnoid-space hydrocephalus)が特徴的です。
- 本邦における有病率は0.2%から3.7%、罹患率は年間およそ10万人あたり120人と推定されており、高齢者においては比較的頻度の多い疾患です。
- 無症状であっても脳MRIでiNPHの特徴的な所見を示すAVIM(asymptomatic ventriculomegaly with features of iNPH on MRI)と呼ばれる状態があり、将来的にiNPHを発症する可能性が高いため、注意深い経過観察が必要です。
- 明らかなリスクファクターは加齢であり、患者の大半を70歳代から80歳代が占めます。その他、高血圧や糖尿病などの血管障害のリスクファクターや、特定の遺伝子多型(SFMBT1)が関連する可能性も報告されています。
- iNPHに特異的とされる病理所見は、現在でも明らかになっていません。剖検例では、くも膜の線維化・肥厚、上衣細胞の脱落、血管壁の硬化性変化や虚血性病変など、高齢者剖検脳で一般的にみられる非特異的所見が混在して認められます。また患者の15〜25%が臨床病理学的にアルツハイマー病(AD)あるいはその合併と診断されており、ADをはじめとする神経変性疾患との共存に注意が必要です。
推奨
- 60歳以上の高齢者で、歩行障害、認知障害、尿失禁のいずれか一つ以上の症状があり、脳画像検査で脳室拡大(Evans Index > 0.3)を認める場合に、iNPHを疑う必要があります。
- 歩行障害を伴い、MRIやCTでDESH(脳室拡大、シルビウス裂拡大、高位円蓋部・正中部くも膜下腔狭小化)の所見が認められる場合は、iNPHの可能性が非常に高く、後述するタップテストの結果にかかわらずシャント術を検討します。
- 脳脊髄液排除試験(タップテスト)は、iNPHの診断とシャント術の治療効果を予測するために有用な検査として推奨されます。