一過性全健忘

概要・推奨

概要

  • 一過性全健忘(TGA)は、突然発症する顕著な前向健忘を主症状とする臨床症候群です。発作中は新しい出来事を記憶できない前向健忘を呈し、また発作開始前の一定期間の記憶が失われる逆向健忘も伴います。
  • 発作中も意識は清明で自己同一性は保たれており、複雑な作業を遂行できることもあります。一方で、今日は何日ですか、ここはどこですかといった同じ内容の質問を執拗に繰り返す行動が特徴的です。
  • 症状は通常1時間から数時間持続し、24時間以内に完全に消失します。
  • 50歳から70歳代の中高年に好発し、強い情動的・身体的ストレス(冷水への曝露、性交、疼痛、感情の高ぶりなど)が誘因となることがあります。健忘以外の神経学的異常は認めず、失語や失行などの高次脳機能障害も伴いません。
  • 記憶形成に重要な役割を担う海馬、特にCA1領域の一過性機能不全が病態の中心と考えられています。発症から数日以内に撮影した頭部MRIの拡散強調画像で、海馬に点状の高信号域を認めることがあります。
  • 予後は良好で、通常は後遺症を残さずに回復し、再発率は低いとされています。

推奨

  • 診断は、特徴的な臨床症状と経過に基づいて行い、確立された診断基準に合致するかを確認することが推奨されます。
  • 診察時には、診察時には、健忘以外の神経学的所見(運動麻痺、失語、失行など)や意識障害がないことを確認することが重要です。必要に応じてMMSEなどの神経心理学的検査を用いて認知機能を評価することもあります。
  • 健忘をきたす他の疾患として脳梗塞、一過性てんかん性健忘(transient epileptic amnesia)、低血糖、薬物中毒、Wernicke脳症を鑑別することが推奨されます。特に繰り返す健忘の場合は一過性てんかん性健忘を考慮すべきです。