急性運動失調
概要・推奨
概要
- 運動失調とは、運動を円滑に行うために必要な複数の筋群の協調性が失われた状態です。個々の筋力は保たれているにもかかわらず、拙劣な運動を呈します。
- 運動失調の原因は、運動調節に関わる小脳系、深部感覚系、前庭系のいずれかの障害によって生じます。また、これらの系と関連する大脳、特に前頭葉の障害によっても起こり得ます。
- 診断を進める上では、まず治療可能な二次性(症候性)運動失調を除外することが重要です。二次性の原因には、脳血管障害、感染症(小脳炎、脳膿瘍など)、傍腫瘍症候群や橋本脳症などの免疫介在性疾患、アルコール性小脳変性症、ビタミン欠乏症(Wernicke脳症など)、薬剤性、甲状腺機能低下症などがあります。
- 発症様式は鑑別を絞る上で最も重要な情報です。突然発症は脳血管障害を、数時間単位での発症は意識障害や眼球運動障害を伴う場合にWernicke脳症を強く示唆します。数日での発症はMiller Fisher症候群や傍感染性小脳炎を、数週〜数ヶ月の亜急性経過では傍腫瘍性小脳変性症・クロイツフェルト・ヤコブ病・橋本脳症・抗GAD抗体関連小脳失調症などを疑います。
- MRIは必須の検査であり、まず脳腫瘍・脳膿瘍などの構造的病変を除外します。小脳に限局した白質病変・びまん性小脳萎縮・脳幹萎縮・視床病変など、各疾患に特徴的な所見を系統的に評価することが診断に役立ちます。
推奨
- 神経学的診察を行い、運動失調の性質(小脳性、深部感覚性、前庭性)を評価し、責任病巣を推定することが推奨されます。また、家族歴、既往歴、薬剤歴、アルコール歴の聴取が鑑別のために推奨されます。
- 急性の小脳症状を認めた場合には脳血管障害を最優先に除外し、速やかにMRI(DWI含む)を施行します。
- Wernicke脳症が疑われる際は検査結果を待たずにビタミンB1を緊急静脈内投与します。眼球運動障害・意識障害・運動失調の三徴が揃う場合のみならず、いずれか一つでも栄養障害や多飲歴のある患者であれば投与の閾値を下げることが重要です。