慢性運動失調
概要・推奨
概要
- 運動失調は、運動を円滑に行うために必要な多数の筋肉の協調性が失われた状態であり、個々の筋力は保たれているにもかかわらず、拙劣な運動を呈します。主に小脳系、深部感覚系、前庭系のいずれかの障害によって生じます。
- 慢性運動失調は年単位で緩徐に進行するものが多く、脊髄小脳変性症(SCD)や多系統萎縮症(MSA)などの神経変性疾患が主体をなしますが、治療可能な二次性・症候性の原因を見落とさないことが最も重要です。
- 慢性経過を呈する運動失調であっても、グルテン失調症・免疫介在性小脳失調症・傍腫瘍性小脳変性症・脳腱黄色腫症(CTX)・CANVAS(RFC1遺伝子関連)・脳表ヘモジデリン沈着症など、治療介入が重要な疾患が含まれています。変性疾患と確定する前に、これらの除外検索を行うことが不可欠です。
- 日本における脊髄小脳変性症全体の有病率は人口10万人あたり18.6人と推定されており、そのうち約3分の2が孤発性、3分の1が家族性(遺伝性)です。孤発性の中ではMSAが最多であり、家族性ではMJD/SCA3・SCA6・DRPLA・SCA31の4疾患が全体の70〜80%を占めます。
推奨
- 慢性運動失調では発症年齢・家族歴・進行速度・随伴症状(自律神経障害・パーキンソニズム・認知症・末梢神経障害など)を詳細に把握し、神経変性疾患の病型推定と二次性原因の除外を並行して進めることが推奨されます。発症様式、進行速度、家族歴、既往歴、薬剤歴、アルコール摂取歴の聴取は、鑑別診断を進める上で重要です。
- 孤発性で小脳失調に自律神経障害(起立性低血圧・排尿障害)やパーキンソニズムを伴う場合はMSAを第一に疑います。純粋小脳失調のみの孤発性ではCCA/IDCAとしながらも、免疫介在性疾患や遺伝性疾患の除外を進めます。
- 家族歴がある場合は常染色体優性または劣性遺伝形式を念頭に遺伝子検査を検討しますが、遺伝子診断は患者・家族への告知の問題を含む繊細なプロセスであり、臨床遺伝専門医との連携のもとで進めます。