癌性胸膜炎
概要・推奨
概要
- 癌性胸膜炎(悪性胸水)は、胸膜腔における胸水の産生と吸収の不均衡によって、胸水が異常に貯留する病態です。
- 原因となる原発巣としては、肺がん、乳がん、原発不明がん、造血器がんが多くを占めます。
- 症状を有して初回受診する症状を有する悪性腫瘍患者の約10%に悪性胸水が存在するとされ、原因疾患は多い順に、肺がん(37.5%)、乳がん(16.8%)、悪性リンパ腫(11.5%)であり、これに卵巣がん、胃がんなどが加わります。
- 悪性胸水と診断されてからの平均生存期間は、4〜7カ月とされています。
- 主な症状として呼吸困難、咳嗽、運動耐容能の低下が認められます。ただし、胸水の貯留が少量であったり、緩徐に進行したりした場合には無症状のこともあります。
- 生理学的には毎日5~10Lの胸水が胸膜を通過しますが、産生と吸収のバランスが取れているため、片側胸膜腔には通常10~15mL程度の胸水しか存在しません。
- がんによる胸水貯留の機序は、胸膜浸潤による胸膜透過性の亢進(産生亢進)、広範な胸膜播種によるリンパ流の閉塞(吸収阻害)、またはこれらの混在があります。
- 胸水が急速に貯留する初期には疼痛がないことが多く、心窩部痛が初発症状となることがあり、ある程度の量が貯留すると労作時や安静時に呼吸困難や圧迫感を訴えます。
- 200mL以上の胸水は胸部X線検査で確認でき、CT検査ではより少量の胸水も正確に検出可能です。造影CTは胸膜播種や原発病変の診断に有用です。
- 診断的胸腔穿刺で得られた胸水の細胞診による悪性細胞の検出率は、初回検査で約60%です。陰性の場合は1回の追加検査により陽性率は27%向上することが報告されています。
- 胸腔鏡検査は、特に悪性胸膜中皮腫が疑われる場合に、組織診断のために有用です。
- 胸膜癒着術に使用される薬剤として、抗菌薬(テトラサイクリン、ドキシサイクリン、ミノサイクリンなど)、抗癌薬(ブレオマイシン、シスプラチンなど)、鉱物(Talc)、溶連菌製剤(OK-432)などが報告されています。
- 日本で行われたブレオマイシン、OK-432、シスプラチン+エトポシドの胸腔内投与を比較したランダム化比較第Ⅱ相試験では、4週間後の胸水コントロール率はそれぞれ68.6%、75.8%、70.6%でした。
- 各薬剤を比較したメタアナリシスでは、Talc噴霧法による胸水制御が良好で、ブレオマイシン、ドキシサイクリン、テトラサイクリンなどより優れていました。
- Talc噴霧法とTalc懸濁法を比較した第Ⅲ相試験では、胸水制御率はそれぞれ78%と71%で、有意差は認めませんでした。
- Talcの重篤な副作用として急性呼吸促迫症候群がありますが、粒子径の大きいもの(平均24.5 μm)では低頻度であったと報告されています。
- 2013年に日本でもTalc懸濁法が承認されて以降、胸水制御のエビデンスがあるTalcが汎用されるようになりました。
- ドライバー遺伝子変異/転座陽性の症例では、胸水に対しても分子標的治療薬が有効であることがしばしば経験されます。
- 胸膜癒着術を行わずに細胞傷害性抗癌薬の投与を行うことが有効であるという報告があり、カルボプラチン+ペメトレキセド+ベバシズマブ療法を行った第Ⅱ相試験では胸水コントロール率が92.9%、カルボプラチン+パクリタキセル+ベバシズマブ療法を行った第Ⅱ相試験では86.9%でした。
- 胸膜癒着術が無効の非扁平上皮非小細胞肺癌に対して、化学療法にベバシズマブを併用した第Ⅱ相試験では、胸水コントロール率は80%でした。
推奨
- 胸水貯留による症状がある場合や、肺の再膨張が困難になることが予測される場合は、治療的処置が推奨されます。
- 症状緩和を目的とした胸腔穿刺は、終末期の患者さんにも低侵襲で行うことが可能です。再膨張性肺水腫のリスクを避けるため、1回の排液量は1,000〜1,500mL程度までとすることが推奨されます。
- 胸水の再貯留により頻回の穿刺が必要な場合、胸水の再貯留が見込まれ、1か月以上の生命予後が期待される場合は、胸腔ドレナージが推奨されます。